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ある女性士官が見た夜戦艦橋(2)


 ■前衛の崩壊

 旗艦「金剛」に座乗する近藤中将の計画は、以下のようなものだった。軽巡「矢矧」以下の水雷戦隊を扇状の陣形で「前衛隊」として先行。その後方に、主隊として「金剛」「黒姫」。直衛隊として「鳥海」「利根」「大淀」。巡洋艦を分離したのは、戦力分散に思えるが、いざという時に突撃させるつもりだったようだ。
 巡洋艦に水雷突撃させる発想のない、我らノーデンフェルト海軍には奇異に感じるところである。

 そして、午前0時20分。前衛部隊は前方に駆逐艦1隻を発見し、反撃の暇も与えずに撃沈した。
 …しかし、これこそが蹉跌のはじまりだったのだ。
 夜間索敵能力に劣る事を自覚していた枢軸側は、事前に6隻のイタリア水雷艇を広い間隔で先行させていたのだ。撃沈されたのは、この1隻の「スピカ」で、自らの命と引き換えに警報を送っていたのだ。

 さらに間の悪いことに、大破炎上する「スピカ」が松明代わりとなって2水戦を照らす位置にあるときに、軽巡「ジュゼッペ・ガルバルディ」を旗艦とするイタリア水雷戦隊の主隊が到着したのだ。

 

 イタリア水雷戦隊と2水戦の発砲は、ほぼ同時だった。
 イタリア軽巡の中でも最新の「ジュゼッペ・ガリバルディ」の火力は高く、同じ軽巡でも火力の弱い「矢矧」を圧倒。指揮能力を喪失してしまった。
 そのため、日本の残存駆逐艦は統率がとれないまま、イタリア軽巡・駆逐艦との近距離の殴り合いに巻き込まれてしまう。


 

 しかしながら、イタリア駆逐艦の主砲が弾庫からの人力装填なのに対し、日本駆逐艦は機力で弾庫から弾が送られるため、発射速度で圧倒。しだいに、優勢に立っていく。


 ■ビックガンの対決
 さて、前衛同士が潰しあっている中、その側面で主力同士も激突しようとしていた。
 枢軸側の主隊は、「ヴィータ」「ヴィットリオ・ヴェネト」「ガスコーニュ」の戦艦3隻。いずれも条約明けの新型戦艦である。

 

 このうち、「ガスコーニュ」はまだ慣熟訓練中だったのだが、フランス政府のメンツのために無理やり参加させられていたのだ。当時の私は、知る由もなかったわけだが。

 当時の私から見た海戦の経緯は、こんな感じだった。
 前衛からの混乱した報告をうけ、むやみな戦場介入は同士撃ちの危険性があるとして、戦場の側面に回ろうとしたとき。
 「電探に感あり!左前方に大型の反応」
 すかさずに「金剛」が探照灯を照射すると、前後にバランスよく砲を配置したイタリア戦艦が浮かびあがった。

 

 私が乗艦していた「黒姫」よりも早く、並列する形になっていた「利根」が射撃を開始した。夜間にもかかわらず、初弾がイタリア戦艦の艦橋に命中するのがはっきり見えた。後で聞いたのだが、「利根」の艦長は砲撃の大家だったとのこと。
 それからの推移は、一方的なものだった。「ヴェネト」は反撃を開始したものの、射撃速度が遅いため「金剛」「黒姫」に圧倒され、巡洋艦の雷撃でトドメをさされた。
 その後方にいた新型戦艦(ガスコーニュ)に至っては、初弾を放って以降沈黙。日本側の集中射撃を浴びながら、遁走していった。戦後聞いたところでは、電路が故障したらしい。


 ■夜戦艦橋で見た幻
 この段階で、「黒姫」の艦橋内には勝利ムードが漂い始めていた。探照灯を照射した「金剛」が損傷していたものの、他は無傷で敵戦艦を撃沈したのだから無理はない。
 「ルツィア少佐、どうやら貴方は勝利の女神のようですな。」
 「いえ、私はむしろ疫病神やら死神と呼ばれているんですよ。乗艦が良く損傷したり沈むので。ですから、これは純粋にあなた方の力です。」
 私のセリフに艦長が何か言い返そうとしたとき、巡洋艦部隊の最後尾だった「大淀」から火柱があがった。

 「ガスコーニュ」が戦場離脱したことで、同士撃ちの危険性が無くなったドイツ戦艦「ヴィータ」が反撃を開始したのだ。
 しかも、こちらが気がつかぬうちに後方に回り込んでいたのだ。
 一撃で「大淀」を大破させた「ヴィータ」は、返す刀で「黒姫」に恐るべき威力の52口径40センチ砲を放ってきた。


  

 「少佐、少佐!しっかりしてください」
 どうやら艦橋に直撃を食らい、その衝撃で気絶していたらしい。
 「で、ドク少尉。状況は?」
 「見ての通りですわ。」
 火災が何処かで起きているらしく、艦橋内に明かりが入っていた。
 見渡すと、そこかしこに乗員「だった」ものが転がっている。動いているのは、負傷者を助け起こす者位である。
 「艦長は?」
 「あそこにいますわ。幸い大きな傷はないようですが、意識がありません」
 ターニャ・ドク少尉が差す方を見て、私は自分も頭をぶつけたのかと思った。なぜなら、倒れる艦長を囲む人影の中に、黒いセーラー服の少女がいたからだ。
 「なあ、ドク少尉。ここに、我々以外の部外者はいるか?」
 「何を言っていますの?いるわけないじゃないですか」
 …そうか、ならば、幻覚に違いない。しかし、幻覚なら何故私に話かけてくる。
 なに?今の攻撃で、副長も航海長も戦死?とりあえず指示を出すから、この海域を出るまで指揮しろだと。
 
 …こうして私は本来部外者であるにも関わらず、戦場を離脱するまで、艦魂だという私にしか見えない少女の指示で、この大型巡洋艦の指揮をとることになったのだ。
 私は、この戦争で様々な体験をするのだが、その中でも一番奇妙な体験だったのは言うまでも無い。
 

>続く…?

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