復仇のヴァルキュリア
〜予告〜
■1944年10月 呉軍港
艦橋から見える、山々の紅葉が濃くなっていくのがわかる季節。
私は溜息をつきながら、日本海軍の本拠地たる呉軍港を見まわした。
「…ここも、すっかり寂しくなったわね。」
第二次大戦開戦後に、海上戦闘の主力となった空母。開戦劈頭に真珠湾を襲い、太平洋の覇者となった6隻の空母は「瑞鶴」1隻しかいない。その穴を埋めるべく建造された雲竜級空母3隻は、まだ竣工してから日が浅く戦力にならない。
「まだ、あの娘の方が役に立つのが皮肉よね。」
視線の先にあるのは、日本艦らしからぬ角ばったシルエットの大型空母。南太平洋海戦で、鹵獲された「ホーネット」のなれのはてだ。
そして、長年海軍の主力だった戦艦は。
「戦艦で内地にいるのは、比叡姉さん1隻だけ。陸奥さんはもういないし、他の姉さん達は燃料がある南方か…」
つぶやきながら視線を「比叡」に向けると、私は気分が落ち込むのを自覚する。
…あの時。そう、1942年11月12日のソロモンで、私がもう少しうまく立ち回れてれば。超甲巡「黒姫」の艦魂たる私は、回想を始めるのだった。